2018年9月23日日曜日

『異境備忘録』の研究(7) -宇内の大評定-

「川丹先生に問ふ、「人の死して後、魂は何処に参り候や」、答、「魂に通りありて日界に至るもあり、罪により月界に至るあり、又、地球上の冥府に属するもあり。然(しか)れども千里の外に遊歴せし魂も、招呼する時は忽然と玉の飛ぶよりも早く来るなり。又、月界に属する魂は地球と両界の境に空気の漂ふ所あり、ここにて他の魂を待ち合せ、七、八つに至りて集合して一つになりて月界に赴く。その魂、罪を免れて月界を出る時に至りては、集合して件(くだん)の所まで来りて、それより分かれて神集岳の司命官に至りて、その指揮によりて地上の冥府に入る魂もあり。何れ月界に赴く魂は皆罪科の霊なり」。」『幽界記』 #0006【太陽と月と地球の関係】>> #0010【「死」と呼ばれる現象】>> #0275【『幽界物語』の研究(45) -人霊の行方-】>>

「地上に幽界はその数多きが中に、一小社と雖(いえど)も幽界を多くは構へたり。宮の幽界は出雲大社等は幽界に入りて見る時は一つの大幽宮と見ゆ。又、罰を申し付ける宮はこの宮にて、賞を行ひ給ふは伊勢の神宮なり。 #0155【『仙境異聞』の研究(20) -幽界の謎-】>> #0252【『幽界物語』の研究(22) -出雲の大神-】>>

 又、罪ある霊魂を罰し給ふ所は数々ある中にて、地獄の刑を行ふ所は諸国の噴火山なり。罪の最大なるは、神集岳中の退妖館に出して、その罰を受けしむるなり。その中には、霊魂を消さるも、月の国へ追はるゝも、地上に付きたる下等の幽冥へ下さるゝもあり。又、善行ありし人の霊魂は日界に上るもあり。川丹先生に聞きしかど、月界に入り、又日界に入りたる霊魂を見たる事は稀なり。多くは霊魂は地に付きたる幽冥界に止まるなり。 #0270【『幽界物語』の研究(40) -現界の罪-】>> #0321【『異境備忘録』の研究(6) -神集岳の形状-】>>
 然るに幽界の大都は第一、紫微宮、第二、日界、第三、神集岳、第四、万霊神岳なり。されども常に幽政を行ふ法式を定める所は神集岳なり。」『異境備忘録』 #0283【『幽界物語』の研究(53) -神仙界について-】>> #0319【『異境備忘録』の研究(4) -幽界の大都-】>>

「宇内の大評定の時は、尊き神等(かみたち)は更にて、諸々の幽界より三人宛、その界にて勝れたるは万霊神岳に集会するなり。日本人、支那人、天竺人、西洋人、種々様々、衣服等異なるが参るなり。何れの界の言語もこの界に入る時は聞き分け入るゝなり。

 会議決定しては神集岳にその決議書を奉る。かくて少名彦那大神、八意思兼神(やごころおもいかねのかみ)、大国主神、御一見ありて、天照皇大御神も一見し給ひ、上極皇産霊神(じょうきょくみむすびのかみ)に御使を以て右の決議書を奉るなり。されども皇産霊神のその許へ参らずして、その代命を受け持ち給ふ天照皇大御神の御許にて、多くは御許可になるなり。
 さて又、幽界にも争闘ありて、幽界中の乱状によりては自然と現世にも及びて、日本に及ぶと支那に及ぶと西洋諸国に及ぶとの差別ありて、関係せる現世の国は一年を俟(ま)たずして忽(たちま)ち戦争起こるなり。幽界の改革もすべてはかくの如く、関係したる現世の国には必ず及び来りて、自ずから改革あるなり。」『異境備忘録』

「万霊神岳記録官には日本・支那の学者等五千八百神坐(ま)せり。その従官は七十二万二千十三なる由(よし)なり。この界の主領官は少名彦那神に坐せり。」『異境備忘録』


 以上により、幽政の改革については山人界、支那仙界、仏仙界、西洋仙界など諸々の仙界の真人(しんじん)が万霊神岳に神集(かむつど)いて神議(かむはか)らせ給い、その決議書を神集岳の主要な神々が御一見の後、北天神界の皇産霊神の許へ奉って可否を伺うのが定律ですが、多くは天照大御神が御許可し給うことが窺われます。

(天照大御神は太陽神界(高天原)の主宰神ですが、また神集岳においては皇産霊神の代命として実務を執行される重大な神職を担われていることが分かります。 #0062【三貴子の誕生】>> )
 さらに水位先生の『青真小童君伝集録』等に記された内容を合わせて勘考すると、顕界の地上人類はもとより宇内に生存する一切の万霊万魂の出自帰属、進退集散去来に関する幽事(かくりごと)を掌り給う根本神府は神集岳の紫籍府(しせきふ)で、皇産霊大神、伊邪那岐大神、天照大御神の代命として少名彦那神が主宰し給い、七十二大司命神がこれを分掌され、その副府である万霊神岳の主宰神もやはり少名彦那神で、その実際面は大国主神が掌り給い、直接的には中司命神ともいうべき万霊神岳の三十九司命神及び眷属の八千七百余柱の小司命神(いわゆる産土神)によって司命の幽事が分担されているという幽政の全体像を把握することが出来ますが、このことについては後述によって次第に判然として来るものと思います。 #0265【『幽界物語』の研究(35) -産土神について-】>> #0315【怪異実話(31) -神の出雲参集の伴をした人のこと-】>>
(水位先生所伝の秘詞の一節に「万霊皆紫籍府司命に帰す」とあるのもこの霊的事実に基づいたものです。)

 また『日本書紀』に、顕事を皇孫命に譲り給い、幽事を治(し)ろしめすこととなった大物主神が事代主神と共に「八百万神を天高市(あめのたかいち)に合(あつ)めて、帥(ひき)ゐて天(あめ)に昇りて」、高皇産霊神に謁見して「大物主」の称号を賜り、高皇産霊神の御娘である三穂津姫神(みほつひめのかみ)を妻として賜ったことが伝承されていますが、この天高市は万霊神岳中の一仙地で、幽顕分界以降、人間界に直接的に干渉する機関である山人界や支那仙界、仏仙界や西洋仙界等が万霊神岳に包含されることになったものと考えられます。 #0120【大国魂神と大物主神】>> #0135【地球上の幽顕の組織定まる】>> #0137【『仙境異聞』の研究(2) -山人・天狗・仙人とは?-】>>

(大国主神には須佐之男命の御娘・須勢理姫神が正妻として坐しますが、大国主神の和魂神・大物主神が高皇産霊神より三穂津姫神を配偶の神として賜わられたのは、この後に幽事の神政を掌り給うに当たり、北天神界との交流の必要性が生じるためと窺われ、真に深き篤き高皇産霊神の御神量(かむはかり)に出ずるものと拝察されます。 #0133【事代主神及び建御名方神の帰順】>> )

 さて、玄家において、仙官真人が尊秘する霊宝七十二真形図の内の一秘図として「万司神岳真形図」の名称が見えますが、道書にもその伝記を欠き、ただ「尊秘して窺うべし」とだけ伝えられ、古来より仙家においても所伝未詳の謎の尊図として厚く尊崇されて来ました。

 水位先生によってもたらされた万霊神岳の真形図は、まさしくその万司神岳真形図であり、その形状は神集岳のような一島嶼(とうしょ)ではなく山岳渓谷の集合体といった趣で、八百万の仙真達が八百万の巨大な霊峰を望まれながら優雅に仙職を遂行される御様子が窺われます。

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